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草の根漢方セミナ― 平成17年度 第1回 1.陰陽論・・・世の中の現象や事象を陰と陽の二つに分類する考え方。 古代中国の「二元論的世界観」 天地の始まりは陰陽の始まり。 中国の古典『書経』によると、「この世は、まず始めに精気(エネルギー)に満たされた暗黒の空間であった。この混沌(カオス)を至高の太極といい、やがてそこに、なんらかの力(神気)が働き、精気は陰陽に分かれ世界ができ。」と記されています。(資料1) 2.陰陽とは…その分類と特徴 @万物は全て陰と陽に分けられ、陰と陽は相対的な概念です。 ○陽は明るい、活動的、温かい、上にある、軽いといった性質を持ったものです。 天・太陽・昼・夏・男・父・表・上・浮・火など ●陰は暗い、沈静的、冷たい、下にある、重たいといった性質をもったものです。 地・月・夜・冬・女・母・裏・下・沈・水など A陰陽は変化する性質を持っています。 あらゆるものが陰陽に分類されますが、自然界を見てもわかるように、これらは固定的な概念ではなく、陰から陽へ、または陽から陰へ絶えず一定のリズムをもって変化(消長)しています。(資料2) 昼と夜 夏→秋→冬→春など B「陰中に陽あり、陽中に陰がある。」 世の中の事象は純粋に陰だけ、純粋に陽だけというものはありません。(資料2) 陰の中にも陽の要素があり、陽の中にも陰の要素があります。
3.陰陽の理論を人間の体にあてはめる…医学への応用 陽である天と陰である地の間に生活している人間もまた、その体に陽と陰を合わせもつ存在だと考えられました。「人生於地、懸命於天、天地合気、命之曰人」(素問・宝命全形論) @人体の部位や病証を陰陽に分類する。 陽…上半身 四肢 背面 体表 五腑 三陽病位 実証 表証 熱証 気 血 陰…下半身 体躯 腹面 内臓 五臓 三陰病位 虚証 裏証 寒証 血 水 A体質の陰陽 体質とは、両親から受け継いだり、生まれてからの生活習慣や環境などによって身についている気質や体力をいいます。この体質を陽性体質と陰性体質に分けて考えてみます。 陽性体質者の特徴 ○体つきががっちりして骨格が太く、筋肉がよく発達している。 ○新陳代謝が盛んで基礎体温が高く(36℃以上)暑がり。 ○気分は高揚しがちでよくしゃべり活動的。 ○胃腸が丈夫で食欲旺盛、どちらかというと便秘がち。 ○かぜなどをひきにくく、ひいても治りが早い。熱が出てスッキリ治るタイプ。 陰性体質者の特徴 ○体つきがきゃしゃで骨格が細く筋肉は軟弱で細くすじばっている。 ○新陳代謝が衰えて基礎体温が低く(36℃以下)冷え性。 ○気分は鎮静気味で無口、何処かへ出かけるよりはじっとしていたい。 ○胃腸が弱く、食が細く、よく下痢をする。 ○かぜにかかりやすく、ひくとなかなか治らない。いつまでも微熱が続くタイプ。 B病状の陰陽 同じ病気に罹っても、患者の体質が異なると表れる症状も異なってきます。陽の性質をもつ症状を陽証、陰の性質をもつ症状を陰証として分類します。証とは「あかし」であり患者の病態を把握して決定された漢方的な診断根拠をいいます。漢方治療では、具体的な病名が決まらなくとも証が決まれば、治療方針が決定します。 陽証の特徴 陽証とは、病邪に対する闘病反応が積極的な状態にある時にあらわれる病状をいいます。 言いかえれば、気血が十分にあり体力が充実した人(陽性体質の人)が罹患したときに表れやすい症状です。その特徴は○症状が急激に悪化する。○体温が上昇し熱症状が強い(熱証)。○病邪は体の表面や浅いところにある(表証)○体の上半身の症状が主。○脈は実脈で浮いている。
陰証の特徴 陰証とは、病邪に対する闘病反応が沈滞的状態にある時にあらわれる病状をいいます。痩せ身で無力な人(陰性体質の人)が罹患したときに表れやすい症状。 ○症状はあまり激しくなく長引く傾向にある。○体温上昇は十分でなく、かえって低下する傾向にあり、熱症状より悪寒や冷えなどの症状を訴える。(寒証)○病邪は体の裏の部分で深いところにある(裏証)○体の下半身の症状が主。○脈は虚脈で弱く沈んでいる。
◎陽性体質の人が病気に罹り、陽の症状を呈しているならば発汗剤や清熱剤などを処方して治療します。同じようにもともと陰性体質の人が病気に罹り、陰の症状を呈しているならば温剤や補益剤などを処方して補い治療します。この様に症状が一般的でその展開が予想されるような時を順証といいます。しかし病気は必ずしもそのような典型的な場合ばかりではありません。陽性体質の人でもそのときの体調によっては陰証を呈することがありますし、陰性体質の人の衰弱が強いと陰証なのに、あたかも陽証のような症状(真寒仮熱)が表れることがあります。また病期によっては陽症と陰症が混ざりあって表れることもあります。正しく治療するためにはその都度その都度、しっかりした診察をして正しい『証』を決定する事が必要になってきます。 ◎漢方治療に使う処方は、構成している生薬の種類や分量によって陽性・陰性の程度が決まっています。患者の体質の陰陽―病症の陰陽―治療する薬方の陰陽この三つの陰陽がうまく組み合わせられれば病気は治って行きます。この組み合わせを見つけていく作業が『証』 をたてるということです。 虚証と実証について 虚証、実証という考え方は陰証、陽証の中の分類の一つです。 ○陽証(実証、表証、熱証) ●陰証(虚証、裏証、寒証) 陰証、陽証は陰陽論の考え方に基づいて病気の性質から分類されていますが。虚証、実証は 量的な概念から病気を分類しています。すなわち虚とは何かが足らない状態を、実とは何か が有り余った状態を表しています。足りない物が何なのか、余っている物が何なのかによっ て、いろいろな方向から虚証、実証が考えられます。 人体が病邪に侵された時、その病態はその人の免疫力(東洋医学では正気といいます)と病 邪の力関係によって決まってきます。この正気が余っている人を実証体質、正気が不足して いる人を虚証体質といいます。これは体質の虚実を正気というものさしで表現したものです。 この生気の虚実と病邪の虚実の力関係で病態が決まってきます。(資料5) @ 正気も病邪も強い(実証)の時…闘病反応が強く陽証を呈します。 A 正気は強く(実証)、病邪は弱い(虚証)の時…発病しません。 B 正気は弱く(虚証)、病邪は強い(実証)の時…闘病反応は陰証となることが多いが、病状が急速に悪化すると陽証を呈し死に至ることがあります。 C 正気も病邪も弱い(虚証)の時…発病してもあまり闘病反応は強くなく、陰証となり慢性化することが多くなります。 日本漢方の古方派と中医学(日本の後世派)での陰陽の概念の相違 日本漢方で代表される古方派は、その理論的な根拠を傷寒論においているため、病症の陰陽 は体力と病邪の力関係によって陽病期(体力が病邪より勝り、熱性の抵抗反応のある時期) と陰病期(体力の余裕が乏しくなり、悪寒、下痢、気力低下状態となった時期)に分けられ ます。そして更に陽病期を太陽病、少陽病、陽明病に、陰病期を太陰病、少陰病、厥陰病に 分けて証を決めていきます。=六経弁証 一方中医学及び日本の後世派(以下中医学という)は病態の陰陽を人体の構成成分や機能といった生理物質と病邪が多いか少ないか(実しているか虚しているか)を臓腑と関連づけることによって証を決めていきます。=臓腑気血水弁証 生理的物質 陽成分……気 病因 陽邪……火(熱)邪 燥邪 陰成分……血、津液、精 陰邪……寒邪、痰飲、水毒、食毒、瘀血 一例をあげると中医学でいう「陰虚証」とは、体内の陰成分が少なくなっている状態を意味しこの場合、多くは熱症状を表すので滋潤剤を用いて治療します。一方古方派で陰虚証というと、陰病期の病症で患者の抵抗力(生気)は少ない状態にあることをいいます。
4.五行論とは… @五行論の成立について 五行説の成立は古代中国の春秋戦国時代(BC770〜BC403)頃と言われています。おそらく古 代の人は、生活に関連性をもつ現象や物質を、同じような性質や形態を持つものどうしに分類 していって、長い年月の間に加えたり分けたりしながら、最終的に五つのグループにまとめ、 それぞれのグループに共通する性質や特性を見出しました。それが木・火・土・金・水の五つの基本要素(五行)です。東洋医学ではこの五行説を診断や治療に応用しています。 A五行…五つの要素の性質の特徴
B五行色体表と五行論の運用 五行の分類は古代人が自然を観察することによって、長い年月の間に生まれたものです。経験がまず最初にあり、理論は後から付けられました。その具体的な分類は五行色体表(五行配当表)にまとめられています。以下に五行色体表のうち身体に関係する項目について記しました。
[五行色体表]……主に身体に関係する項目 木 火 土 金 水 ------------------------------------------------------------------- 五臓 肝 心 脾 肺 腎 陰経 足の厥陰 手の少陰 足の太陰 手の太陰 足の少陰 五腑 胆 小腸 胃 大腸 膀胱 陽経 足の少陽 手の太陽 足の陽明 手の陽明 足の太陽 五色 青 赤 黄 白 黒 五味 酸 苦 甘 辛 鹹 五窮 目 舌 口 鼻 耳 五華 爪 面 口唇 毛 髪 五体 筋 血脈 肌肉 皮毛 骨(髄) 五液 涙 汗 涎 涕 唾 五志(七情) 怒 喜 思 憂(悲) 恐(驚) 五邪 風 熱 湿 燥 寒 五季 春 夏 土用 秋 冬 五神 魂 神 意 魄 志 臓腑の機能が衰えると、五行の配当表に示された同じ属性の項目に影響をあたえます。 東洋医学ではこの五行説を診断や治療に応用しますが、あまり機械的に運用しすぎると観念論 に終わってしまいます。しかし実際の臨床上においても納得できることが多いので、上手く活 用することが大切です。 [五行の相対的な関係] @ 相生関係……母子関係、協調・親和関係 A 相剋関係……相互制約・相互阻止の関係 5.陰陽五行論の東洋医学への応用 @陰陽五行論で患者さんの体質と性質を知る まず肝・脾・肺・腎の四体質を陰性タイプと陽性タイプにわけます。 陰性タイプ 骨格がきゃしゃ、疲れやすい、体温が低い(冷え性)、血圧が低い、筋肉が軟弱、風邪をひき易 く治りにくい、貧血気味、よく下痢をする、水肥り、無口、あまり動きたがらない。 陽性タイプ 骨格ががっちりしている、疲れ知らず、体温は高め(暑がり)、血圧が高い、筋肉は硬くしまっている、風邪をひき難くひいても早めに治る、多血症気味、下痢よりは便秘がち、堅肥り、多弁、活動的でよく動く。 ● 肝体質の人は目が特徴的 「目がふつうより大きいか、小さいか、鋭いか」 「皮膚が青味を帯びることがある。静脈が透けて見える」 肝の陽性体質……力のある大きな目、度胸があり行動的、血の気が多く怒りっぽいタイプでがっちりした筋肉質の男性に多い。(大柴胡湯タイプ) 肝の陰性体質……切れ長の細い目、肌が青白い、気配り気遣いが多い、好奇心旺盛、筋肉は筋ばっている、細かい事が気になる、イライラしやすく血が不足しやすい、冷え性の女性に多い。(加味逍遥散タイプ) 肝は血を蔵す器官ですので、肝体質の人は将来、血液がらみの病気、例えば女性の血の道症、血流・血管異常の病気(血管腫、動靜脈瘤、動脈硬化症)にかかりやすいといえます。
● 脾体質の人は口が特徴的 「口が大きいか、小さいか、特徴のある形をしているか」 「皮膚が黄色味を帯びることがある。」 脾の陽性体質……口が大きい。大食漢で血色がよく、陽気で楽天家。欲望が強く自己中心的な面も、ついつい食べ過ぎて胃腸の調子を崩すこともある。暑がりで汗っかき。便秘がちで胃に熱をもちやすい。(承気湯タイプ) 脾の陰性体質……口は小さく(おちょぼ口)、少食で胃がもたれやすく、下痢になったり便秘になったりしやすい。気分が落ち込みやすく特に体調を崩すと気鬱になりやすい。気も血も不足する傾向にあるため普段からよく体や手足のだるさを訴えたりします。筋肉にしまりがなく水太りのタイプが多い。 (六君子湯・補中益気湯タイプ) 脾体質の人は、甘味の食品を好みますが、量が過ぎると甘味は脾を破り消化器系にダメージを与えますので注意が必要です。また脾タイプの人は消化管内に水分が停滞しやすく、湿邪が原因で起る病気(関節炎やリューマチ)に罹りやすいといえます。また膵臓は脾のグループに属するので将来、膵臓疾患や糖尿病に対する注意が必要です。
●肺体質の人は鼻が特徴的 「鼻がふつうより大きいか、小さいか、特徴のある形をしているか」 「皮膚は色白の人が多い」 肺の陽性体質……鼻が大きい、声が大きい、ひげや体毛が濃い、気のめぐりが良いので頭の良い人が多い、スポーツ好きで体を動かしているほうが調子は良い、パワフルで社交的な性格の人が多い。(葛根湯や麻黄湯などの麻黄剤の適応タイプ) 肺の陰性体質……鼻筋の通った小さい鼻、声が小さい、年中風邪気味と訴え、胃腸も強くない。(桂枝湯や香蘇散タイプ) 肺体質の人は辛味の食品を好みます、これは、辛味の食品には肺気をめぐらせる働きがあるた めですがその効果は一時的です。辛味の食品には温性のものが多く摂り過ぎると消化器系の粘 膜や皮膚に炎症を起こすこともあるので注意が必要です。また、肺体質の人は呼吸器系疾患、 アレルギー疾患、皮膚疾患、大・小腸の病気に罹りやすいので注意が必要です。
●腎体質の人は耳が特徴的 「耳がふつうより大きいか、小さいか」 「皮膚の色は浅黒い」 腎の陽性体質……耳が大きく丸っこい、粘り強く意志が強い、性力旺盛。 腎の陰性体質……耳が小さいか貧弱、痩せ型、乾燥肌、怖がり。(八味地黄丸タイプ) 腎体質の人は塩辛い食品を好みます。この塩辛い(鹹味)は、陰気が強くて固くなろうとする傾向にある腎や膀胱、骨や骨髄に働いて、潤し軟らかくする働きがありますが摂り過ぎるとかえって腎臓に負担を与えます。腎体質の人は、腎炎や尿路結石などの腎・泌尿器系の病気、糖尿病や前立腺肥大、子宮筋腫などのホルモンの分泌に関与した病気にかかりやすく、中年期以降に発病しやすいので注意が必要です。
A五臓六腑の生理と病症 肝と胆の生理(思考活動と決断、血量のコントロールを主る) 肝は『将軍の官、謀慮(計画)を為す』(黄帝内経) 胆は『中正の官、決断を為す』(黄帝内経) 「肝」の働き…肝は木の陰に属する @ 肝は疎泄を主る。(新陳代謝と解毒作用を行なう) A 肝は血を蔵す。(血を貯蔵して全身に栄養を供給する) B 肝は筋(筋膜)を主る。(骨格筋の緊張を維持する) C 肝は目に開窮し、その華は爪にある。 D 精神活動を安定させ気分を伸びやかにする。 「胆」の働き…胆は木の陽に属する 胆は『中正の官、決断を為す』とあるように正邪を見分け邪を追い出し、決断や勇気を生みだします。よく「胆が据わる」と言うように、胆気が強いとストレスに対する抵抗力が強く、胆気が弱いと気が小さく、おどおどして物事に挑戦することができなくなります。また胆は肝に付着していて肝の疎泄作用を助けるとともに、胆汁を貯蔵して消化の助けもします。
肝と胆の病症 ●肝の病症 肝に異常が起ると、顔色(眉間)が青白く、眼光に異様な光があって、目がつり上がり怒りっぽくなります。酸味を異常に好むようになり、春に病気が悪化します。精神的なストレスなどが大きな原因となります。 @ 疏泄機能が低下……化膿性の炎症、皮膚病、痛風 A 肝血が不足(肝血虚)……貧血、冷え、不眠、生理不順 眼精疲労 肝血が過剰になると(肝実).……高血圧、脂肪肝 B 筋肉の血液が不足する……こむらがえり、肩こり、腹直筋の緊張、胃痙攣 C 視力を維持していくには多くの血液が必要なので、肝血が不足すると目が疲れてきて、乾き、ショボショボして首の後や背中の肩甲骨の間が凝ってきます。また爪は筋の余りといわれ、肝血が不足して爪に栄養が十分行かなくなるため、爪が薄くなったり、縦の線が多くなります。
●胆の病症 胆が衰弱すると、決断力、実行力が低下し、思慮をめぐらしてもいつまでも決断がつかなくなります。反対に、胆が盛んになると、イライラして怒りやすく情緒不安定になり不眠などが現われます。「肝胆相照らす」という言葉があるように胆の病は肝の病状をおこしやすく、逆に肝の病は胆に波及しやすいと言えます。
心と小腸の生理(循環器の働きと精神活動を主る) 心は『君主の官、神明(精神)を管理する』(黄帝内経) 小腸は『受盛の官、化物を生ず』(黄帝内経) 「心」の働き…心は火の陰に属する 心は人体の一切の活動を主宰しています。五臓六腑の活動・四肢百骸の運動・思惟情志の変化 は全て心によって支配されています。また心の陽気は、気の陽気と血の陽気が合わさったもの で君火といい心の生理的活動を表しています。この君火は人体を動かす原動力となり各臓器に 運ばれ相火となります。 @ 心は神を主る。(意識を清明に保つ)、心は生の本・神の変ずる所、心は神明出ず、など知識や精神作用のすべて、感情、感覚、思惟活動の不可思議な作用を「神」の作用としてその中枢を心に置きました。 A 心は血脈を主る。(血脈を通して血液を全身に循環させる) B 心は舌に開窮し、その華は面にあり、汗を主る。 (心熱があると舌先が赤い、気血が充実しているかどうかは顔色をみる。)
「小腸」の働き…小腸は火の陽に属する 小腸は『受盛の官、化物出ず』場所であるとされ、胃より下注された水穀を受け取り、変化・化生させます。即ち、水穀を消化するとともに、「清濁を分別」する場所であり、水穀の精微から摂取される栄養分は大部分小腸から吸収されます。残渣のうち水溶液は膀胱に固形物は大腸に送られ体外に排出されます。
心と小腸の病症 ●心の病症 心が病むと赤ら顔で、舌がもつれて言葉尻がはっきりしない、異常によくしゃべり、ちょっとしたことに喜ぶようになり笑いが止まらないなどの精神状態の乱れが現れます。また苦味のあるものを好み、病気は夏に悪化し、心は舌に開窮するため舌先が赤く荒れてひりひりしたり、両頬の赤みが強くなります。 @ 心の主る血脈が不通になれば、手足の冷え、四肢厥冷、意識混濁、胸内苦悶感などの虚血状態となります。 A 心気の異常により息切れ、呼吸困難、動悸、脈の結滞、不眠、血圧の異常がおこります。 心は身体の中で最も活動的で大切な臓器であるため、心の異常は直接生命にかかわります。 B心は陽中の陽の臓器であるために熱を持ちやすく、このときは顔面紅潮、口渇、吐血、鼻血、小便黄赤、舌が赤く亀裂を生じ脈が速くなる、といった症状がおこります。 ●小腸の病症 小腸の機能がおかされると大小便に影響し、糟粕を分離できず、下痢や便秘がおこります。
脾と胃の生理(消化吸収と排泄、血流のコントロールを主る) 脾は『倉廩(穀物を蓄える倉)の官、五味出づ』(黄帝内経) 胃は『水穀の海、受納を主る』(黄帝内経)
「脾」の働き…脾は土の陰に属する。 @ 脾は運化を主る。(食物を消化吸収し水穀の気=胃の気を生成する) A 脾は統血する。(血流を滑らかにし血管からの漏出を防ぐ) B 脾は肌肉・四肢を主る。(筋肉の形成とその維持をおこなう) C 脾は口に開窮しその華は口唇にある。脾の健康状態は、口唇に現れやすく、脾が正常であれば、口唇はいきいきとして血色がよく光沢に富んでいるが、脾に異常が起こると口唇は蒼白くつやがなくなります。 「胃」の働き…胃は土の陽に属する。 胃は食物を受け入れて、腐熟(消化)させます。胃は受納を主り、脾は運化を主る。脾と胃は共同で、消化、吸収、栄養物質の運搬を行っています。脾は湿を嫌い燥を好み、その気が上昇することで精微物質は全身に運ばれます。胃は湿を好み燥を嫌い、その気が下降することで未消化物を次の小腸に送り込みます。
脾と胃の病症 ●脾の病症 脾が病むと、顔色が黄色っぽくなります。物思いにふけり、気力不足となりやすく、よく物忘れをしていつも眠いと訴えます。甘い物が異常に欲しくなることがありますが食べ過ぎると、口内炎や胃炎などの熱症状が発生しやすくなります。病気は四季の土用、俗に言う季節の変り目に悪化しやすく、また脾は湿邪の影響を受けやすいため梅雨の時期に特に体調を崩し易くなります。脾は肌肉・四肢を主るため、脾が病めば極端に肥えてきたり痩せたりして、手足がだるく力が入らなくなります。 @ 脾の気の異常……げっぷ、鼓腸、ガス性の疝痛、乾嘔、腸蠕動亢進、中気下陥 A 脾の水の異常……脾は湿を好み、消化管の余分な水分を吸収して水穀の精と一緒に引き上げ、 全身に分配する働きがあります。この作用が衰えると余分な消化管の水(痰飲)によって唾液の異常、下痢、水様便、呑酸が起こります。 B 脾の運化機能の異常……食欲不振、胃腸虚弱、消化不良、食後の倦怠感、胸やけ、胃もたれ、 心下痞(みぞおちのつかえ)、食滞、悪心、便秘、下痢 C 脾の統血機能の低下……脾は肌肉を主る、毛細血管は肌肉に属するため脾気が虚せば、鼻出 血や皮下の点状出血、紫斑、血尿、不正性器出血などがみられます。慢性で反復性の出血が特徴です。長びくと脾胃の血虚となります。 D 味覚の異常……脾虚になれば味覚がなくなり、湿熱があれば甘く、脾気過剰になれば苦く感 じます。 ●胃の病症 脾と胃は表裏・相互依存の関係にあり、胃の病変は脾に、脾の病変は胃の働きに影響します。 胃気は徐々に降りていくのがよい状態ですが、脾の働きが弱り湿が胃に停滞してくると(胃内停水)胃部の腹満、腫脹、痞硬が起こり、胃は実して熱を持ち脾の津液を乾かすため口唇の乾燥や口内炎、胃気上逆による嘔吐、脾気下陥による下痢などが起こります。
肺と大腸の生理(呼吸作用と防衛作用を主る) 肺は『相伝の官、治節を出づ』(黄帝内経)上位の器官である心の働きを助けてその他の下位の 器官を統率する宰相の役目をします。 『肺は五臓六腑の蓋也』他の臓器の上に覆いかぶさって保護をしています。 大腸は『伝導の官、変化を出づ』(黄帝内経) 「肺」の働き…肺は金の陰に属する。 @ 肺は気を主る。(肺は宋気を作り出す) 肺は自然界の中の清気と飲食から得た水穀の精気を合わせて宗気を作り出します。この宗気は心と協力して血液を全身に循環させることで 水穀の精気+天空の清気+心の陽気(君火)といった気のミックスを全身に巡らします。 A 肺は宣発、粛降を主り、水道を通調する。 B肺は皮毛を主り、鼻に開竅する。(皮膚の機能の制御・防衛力の保持・皮毛や汗腺を管理して体温を調節します。)
「大腸」の働き…大腸は金の陽に属する。 @ 小腸からの飲食物(糟粕)を受取り、水分を吸収して糞便に変え、肛門より外部に排出します。 肺と大腸の病症 肺の病症 肺の弱い人は顔色が蒼白く、全体の皮膚の色も色白です。憂いがちな性格で悲しみやすく、辛い味が好きで、皮膚の弱い人が多い。肺は秋に属するので秋口に病気は悪化しやすくなります。 @ 肺の気の異常により、寒気、咳、うすい痰、胸中満、喘鳴、息切れ、動悸が起こる A 肺は皮毛を主っているので、肺が病めば皮膚呼吸や汗の調節が上手く行かず肌肉部への水分の貯留、体温調節異常などがおこる。また肺の弱い人は皮膚のトラブルを起こしやすい。 B 肺と鼻は深く関係している(肺の外口は鼻である)ため、はいの病変はすぐ鼻に影響し、鼻づまりや嗅覚異常を起こしやすい。また体質的に肺の弱い人はアレルギー性鼻炎・いびき症・蓄膿症になりやすい。 大腸の病症 大腸の機能異常は、大便の秘結、裏急後重、下痢、痔疾、肌荒れなどを起こします。 大腸と肺は表裏の関係にあり、肺気がうまく巡らないときは便秘になります。このときは大腸に働きかける下剤だけでなく、肺を同時に治療します。⇒桂枝加芍薬湯など
腎と膀胱の生理(発育成長・生殖活動・水分代謝を主る) 腎は『作強の官、技巧を出づ』(黄帝内経) 膀胱は『州都の官』(黄帝内経) 「腎」の働き…腎は水の陰に属する。 人体の成長や発育・生殖などの生命活動に必要なエネルギーの基になる活力を精といい、精には先天の精と後天の精があります。このうち先天の精は腎に蓄えられています。腎はこの精を使って発育・成長・生殖を管理し、また他の五臓六腑に分配してその活動を調節しています。その作用は各種のホルモンによる身体調節作用に似ており腎精が少なくなると老化現象が始まるため、腎の働きと老化とは深く関係しています。腎は陰中の陰の臓器で陰の気が多く、陽の気が少ないため冷えやすいので、常に心からの相火で温められています。 @ 腎は精を蔵す。(成長・発育・生殖能を主る) 乳幼児の発育・思春期の性の成熟・壮年〜老年期以降の老化現象に影響します。 A 腎は水液を主る。(水分代謝に関係して体内の水分量を調整する) B 腎は骨を主り、髄を生じ、脳に通じる。(精は髄を生み、髄が集まって脳となる) C 腎は、上は耳に、下は二陰に開竅し、その華は髪にある。 「膀胱」の働き…膀胱は水の陽に属する。 膀胱は腎とともに水分代謝の働きを担い、貯尿と排尿を行っています。 膀胱は「州都の官」とあります。州都とは周りを取り囲んで水を集めるところで膀胱は腎で生じた余分な水を尿として集め排出する働きがあります。 腎と膀胱の病症 ●腎の病症 腎臓に病気があると、顔色がどす黒く、恐れやすくなります。塩辛い味を好み耳やのどに異常を起こしやすく、足腰が冷えると、すぐに腰がだるくなります。腎は、季節は冬に属するので、膀胱炎や腎炎など腎の病は、冬に悪化しやすくなります。 @ 腎は精気を作り蔵する所です。腎気が虚せば精気が作れないため各種の生殖器疾患、男性では精子不育性不妊・インポテンツ・前立腺肥大、女性では、冷え性、生理不順、卵巣や子宮の器質異常(内膜症や筋腫など)がおこります。 A 腎は水液を調節しているので、機能の低下により下半身・下腹部の倦怠感・冷え感、むくみ、多尿、頻尿、亡尿、遺尿、口渇、残尿感がおこります。 B 腎は耳に通じるため衰えると耳鳴、難聴がおこります。 C 脳、骨、骨髄は腎精によって生まれるので、腎が衰えると、腰が痛くなり、骨がもろくなり変形したり骨折しやすくなり、歯がゆるみ、記憶力が低下し、動作が緩慢になります。 ●膀胱の病症 膀胱は腎と表裏の関係にあり、腎気が充足していれば膀胱はよく働き、腎気不足であれば尿の停滞、尿の失禁、頻尿、尿の漏瀝、膀胱結石などがおこります。
三焦と心包の生理(形がなくて、働きだけがある臓腑) 心包は臣使の官、喜楽を出づ(黄帝内経) 三焦は水穀の道路であり気の終始する所である。(難経) 「心包」の働き…火(相火)の陰に属する。 心は五臓六腑の中の君主で最も重要な臓器だと考えられていました。 一国の君主には必ずその意見を聞いたり、家臣に命令を伝えたりする側近や、身近で護衛する者がいるように、身体の君主である心にも、そのような役割を担う臓器が存在するはずだと考えその臓器を心包と名付けたのです。そのため心包は心臓を保護し取り囲むケースのようなもので機能だけで形がありません。その主な働きとしては、 ○心の保護を行います。心包には、内外から邪が心に侵入するのを防ぎ、邪が侵入して来た時には心に代わってこれを受け止めます。 ○心から全身へ送り出される、活動エネルギーである君火(心火)を調節して全身に分配する働きがあります。 ○心の病は心包で治療する。(鍼灸) 「心は五臓六腑の大主なり。精神の舎る所なり。その臓堅固にして邪容ること能わず。これに容るときは心傷る。心傷るときは神去る。神去るときは死す。故に諸邪の心に在るものは、心の包絡にあり。」(霊枢邪客篇)
「三焦」の働き…火(相火)の陽に属する。 @ 腎、膀胱、肺などの臓器と連合して水分調節を行う、その通路の働きをします。 A 脾で生成した水穀の精、腎に蓄えられていた腎精、肺でとり入れられた天空の精などのあらゆる精気が運ばれる通り道となります。 B またこれらの精気の身体における分布位置によって上焦・中焦・下焦に分かれ、それぞれ特徴的な機能を行います。 上焦: 『上焦は気の海』 『上焦は霧のごとし』(霊枢) 横隔膜より上の機能で、胸部を指し心・肺が担当します。飲食物から作られた気を肺の宣発・粛降作用と心の推動作用によって全身に巡らせて、皮膚を潤し、体毛に栄養を与え、発汗などにより体温調節を行ないます。 中焦: 『中焦は水穀の海』 『中焦は泡のごとし』(霊枢) 横隔膜から臍までの機能で、上腹部を指し脾・胃・肝が担当します。飲食物を胃の受納・腐熟作用によって、消化し津液の生成をおこないます。さらに脾の運化作用により肺に運ばれて、血と精気を全身に巡らせる役割をします。 下焦: 『下焦は瀆のごとし』(霊枢)臍から下の機能で腎、膀胱、大腸、小腸が担当します。水液の静濁、大小便の排泄が行われ、不必要になった水液は膀胱に運ばれます。すべての過程は腎の気化作用によって調節されています。
以上のように五臓六腑の生理とその機能が失調した時の病理をみてきました。これらの五臓六腑は経絡によって密接に結びついているので、その臓腑単独で病気が進行するということはあまりありません。陰陽五行論によって病気の進行を見ていくといくつかのパターンがあります。 @臓(陰)―腑(陽)間でバランスが崩れ病気になる場合 臓と腑は陰陽の関係にあり、お互いにバランスを取り合っています。そのため一方が弱くなる(虚する)ともう一方が強くなる(実する)という性質を持っています。例えば脾が弱り消化力が落ちると胃に負担が掛かり胃が実して熱を持ち口内炎などができる。 A臓の病症は腑に表れやすい 臓は陰であるために体の比較的深い部分に位置しています。そのため臓に何か病変があれば、比較的浅い位置にある腑の炎症として表われることがあります。 B五行の相生関係・相剋関係の間でバランスが崩れ病気になる場合 心⇔脾 心的ストレスやショックによって食欲不振、消化不良、下痢などがおこります。相生 心⇔肺 心機能の低下によって咳嗽、息切れ、痰飲、呼吸困難などがおこります。 相剋 心⇔腎 腎機能が低下すると心不全や血圧の上昇などがおこります。…腎性高血圧など 相剋 肝⇔脾 肝臓疾患が進むと胃腸障害(吐き気・慢性下痢・腹水)などがおこる。 相剋 脾⇔腎 例えば糖尿病は脾が破れた結果、腎の機能低下を起こした状態です
[五臓六腑の相互関係] @ 心⇔腎(相剋の関係)腎は陰中の陰の臓で活動していくためには、心の陽気が必要です。心包から送り出された陽気(相火)は脾・肺で作られた後天の精と合わさり腎の活動力である命門の火となります。また腎の陰気は心の陽気が暴走しないように冷却する働きもしています。 A 脾⇔腎(相剋の関係)脾胃での食物の運化作用は、腎の命門の火の陽気を利用し、腎・膀胱の陰気を保つ(潤す)ためには脾胃で吸収された津液が使われ、脾胃で吸収された水穀の精は命門の火の原料として利用されます。
相剋の関係はお互いに牽制しながら、協調する関係にあります。
B五臓六腑間の相互作用によって起こる病症 〜臓腑弁証へのアプローチ〜 現代医学では心臓病とか肝臓病というように単独の臓器で病気を考えますが、東洋医学では身体を臓腑の統一体とみなしますから、全身の(五臓六腑の)どの臓腑の機能が衰えて病気が始まったのか(病気の根本)、また、なぜ弱ったのか(病因)をまず考えます。そしてその臓腑から次にどの臓腑に影響を及ぼし臓腑間のバランスが崩れていったかを、みていきます。 臓・腑のバランスが陰陽の関係で崩れた病症 臓(陰)と腑(陽)は適度にバランスを保っているのですが、一方が弱くなれば(虚すると)一方が強くなる(実する)という性質を持っています。例えば脾の消化能力が衰えてくると、胃に炎症などの熱症状がおこってきます。また、腎の水液調節作用が衰えてくると、膀胱炎などの熱症状がおこってきます。臓と腑は互いに密接に関係しあっており、また生理機能も似かよっているためにバランスが崩れても修復しやすいと言えます。 臓・腑のバランスが五行の関係で崩れた病症 1.相生の関係にある臓腑間の病症 ある臓腑の機能低下が、他の臓腑にまで影響を及ぼす時に、五行の相生の関係(母子関係)で病気が進行する場合です。相生関係は、お互いに協力し合う関係なので、一方の臓腑の状態が良くなれば、他方の臓腑も良くなります。病気の初期にはこの関係で症状が現われることが多く、病気の段階としてはまだ治りやすいといえます。 心―脾 ○ 心は精神活動を主るため、過度の精神的なストレスやショックなどによって心気が不足すると、その子である脾の働きが弱くなり食欲不振、消化不良、下痢、上腹部痛などの脾の病症が現れます。 ○ 脾の運化作用や統血作用が衰えると血が不足して心に負担をあたえます。 貧血による動悸、息切れなど、健忘、不眠の症状が現れます 帰脾湯 肝―心 ○ 肝は血を蓄えるとともに必要に応じてその血を分配し血量を調節しています。肝の血が不足したり、調節機能が衰えると、その子である心の血も不足して、心悸、不眠、多夢、健忘、手足のしびれなどの症状が現れます。 四物湯 柴胡桂枝乾姜湯 脾―肺 ○ 脾は飲食物より気血を運化して、これを肺に送り肺や気管などを滋潤しています。そして肺ではこれに宗気を加え、宣発・粛降作用により再び脾に送り脾の運化作用を助けます。飲食の不摂生によって脾が弱ったり、また慢性呼吸器系疾患によって肺が弱ると、この協調作用が失調するため、疲労倦怠、食欲不振、泥状便や下痢、便秘、腹部膨満感、咳、痰、むくみ、などの症状が現れます。 六君子湯 桂枝人参湯 半夏厚朴湯 参蘇飲 肺―腎 ○ 腎は気の格納庫です。(腎の納気作用)その気は肺の粛降作用によって補充されています。またこの腎の納気作用によって肺は吸気作用を維持していくことができます。腎が弱り納気作用が減退すると喘息や息切れ、自汗、四肢の寒冷などの症状が現れます。 桂枝加竜骨牡蛎湯 味麦地黄丸 麻黄附子細辛湯
○ 肺は粛降作用によって腎を潤し、腎は滋潤作用によって肺を滋養しています。慢性の呼吸器系疾患によって肺が弱ったり、また肉体疲労や房事の不摂生、睡眠不足などによって腎の働きが弱るとお互いの陰気(体を潤す成分)が不足するために虚火が発生します(陰虚内熱)。症状としては、空咳、声がれ、口内・咽喉の乾燥、五心煩熱(手足のほてり)、不眠などが起ります。 炙甘草湯 滋陰降火湯 味麦地黄丸 腎―肝 ○ 肝は血を腎に送ることで腎を養い、腎はその滋潤作用によって肝を潤して肝が熱を持ちすぎないように調節しています。ストレスや疲労の長期化、慢性病などによって両者のバランスが失調すると、それぞれに内熱(虚火)が発生し肝の疎泄作用や腎の蔵精作用が弱まり、耳鳴、遺精、インポテンツ、目の乾燥、月経過少、無月経、崩漏などの症状があらわれます。 杞菊地黄丸
2.相剋の関係にある臓腑間の病症 ある臓腑の機能低下が、他の臓腑にまで影響を及ぼす時に、五行の相剋の関係で病気が進行する場合です。相剋の関係はお互いに牽制しあう関係なので、一方の臓腑の機能が低下すると、相剋の関係にある臓腑は抑制されないので機能が亢進した様な症状を呈することがありますが、これは一時的なもので、やがてどちらも機能低下となります。このような相剋の関係で進んでいった病気は、慢性疾患がこじれた場合によく見られ、治りにくいといえます。 心―肺 ○ 心肺の機能減退によっておこる、心悸、喘息を主症としたもの。高齢や過度の精神的ストレスは、心の推動作用を低下させ心血不足となり肺を滋養することが出来ません。このため肺の宣発・粛降作用が低下し痰飲、咳嗽、息切れ、呼吸困難がおこります。現代医学では、慢性心不全、冠状動脈硬化症と呼吸器疾患の合併症などがあたります。 半夏厚朴湯 木防己湯 桂姜棗草黄辛附湯 心―腎(心腎不交)……『火の臓と水の臓の相互作用』 ○ 慢性疾患、房事過多、極度の過労、高齢、精神的ストレスなどによって腎の陰気成分(腎陰・腎水)が不足すると、心の陽気(心火)の亢進を抑制できません。亢進した心火はさらに腎水(腎陰)を煮詰めてしまうので、全身に熱性症状(虚熱)が発生します。 健忘、不眠症、精神不安、心煩、心臓部痛、腰肺部の痛み、耳鳴・めまい、下肢のだるさ、夢精、口渇、帯下、高血圧、のぼせ、などの症状が生じます。 滋陰降火湯 桂枝加竜骨牡蛎湯 酸棗仁湯 帰脾湯 肝―脾 ○ 過度のストレスや思慮過多から肝の疎泄作用が低下すると、肝気が鬱結してきます。肝は多くの血を蔵しており熱を持ちやすい臓器ですので、肝気の鬱結は肝の火となり、この火が脾にまで及ぶと脾の運化作用(消化吸収)が低下してきます。また逆に脾の気虚証が起こると、水穀の精微が脾で作れずに肝血が不足してきます。このためにイライラして怒り易い、ため息が多い、胸脇部の腫脹感と圧迫感(胸脇苦満)、食欲減退、腹痛、便秘、腹鳴、下痢、吐き気などの症状が生じます。肝炎のときの胃腸障害などがこれにあたります。 加味逍遥散 大柴胡湯 四逆散 小柴胡湯 柴胡桂枝湯 柴胡疎肝散 肝―脾―胃 ○ 肝―脾の病症が進みさらに胃熱の症状が現れたものです。/心理的因子により増強し、イライラ、胸やけ、胃部灼熱感、不眠、便秘/呑酸、口苦が現れます。神経性胃炎、胃潰瘍がこれにあたります。 小柴胡湯の合方など…柴胡解毒湯(小柴胡湯+黄連解毒湯) 脾―腎 ○ 脾は運化作用によって消化管の水分を水穀の精微として肺に汲み上げ、肺から腎に下っていきます。脾のこの機能が低下すると消化管の内部に水分が停滞し、腎の気化作用(水分調節作用)に障害をあたえます。またこの気化作用の原動力(腎の陽気)は脾によって作られる(水穀の気)によって補充されるので脾の機能低下によってさらに障害されます。症状としては尿量減少、下肢の冷え、浮腫み、慢性下痢、下腹部の冷痛などが現れます。 真武湯 五苓散 胃苓湯 附子理中湯 補気建中湯
一般に臓腑間の、相生関係の変調によって生じた病気は治りやすいが、相剋関係の変調によって生じた病気はこじれやすく、治りにくいことが多いと言えます。
[参考文献] ○陰陽五行説 根元幸夫著 (薬業時報者) ○気の医学1 井村宏次著 (星雲社) ○臨床中医臓腑学 王 財源著 (医歯薬出版
[演者プロフィール] 住友 孝嘉(すみとも たかよし) 1963年生まれ 愛媛県出身、昭和60年東京薬科大学卒業、平成9年明治東洋医学院 鍼灸科 卒業、薬剤師・鍼灸師。平成11年東洋漢方製薬に入社、現在は同社の附属薬局に勤務するかたわは、鍼灸治療院にて鍼灸を修業中。
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